審 査 講 評REPORT

REPORT

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全体審査委員長  安藤 義道

1.総括

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、全国の各地域でまん延防止等重点措置がとられる中での発表会開催となった。例年なら若者に人気の渋谷に近い国立オリンピック記念青少年総合センターに全国各地から農大生が集い、プロジェクト発表・意見発表に加え交換会も開催されるはずであった。しかし、開催日程の2月1日には全国での感染者数が8万人を超え、2日には一気に9万人を超える状況の中では発表会だけの大会となったのはやむをえないことであった。

 発表会は非対面式となったが、昨年の収録による審査員だけの参加ではなく、オンラインによるリモート形式で全国の農大に配信され、例年通り審査員による質疑応答も行われる臨場感あふれる発表会となった。発表する方も、審査する方も慣れないこともあって、パソコンの立ち上げがうまくいかなかったり、カメラとマイクの切り替えがスムーズにいかなかったりのトラブルは多少あったが、全体としてはスムーズに進行したといえる。ほぼ時間通りの進行となったが、技術的援助も含め進行に当たった岩手県立農大の学生と職員による努力の賜物といえる。

2.プロジェクト発表

 課題は例年通り養成課程が15課題、研究課程は少なくて3課題であった。主な部門別でみると養成課程では果樹4課題(サクランボ、ブドウ、ナシ、ミカン)、花3課題(バジル、花壇苗、トルコギキョウ)、米3課題(パン、ドレッシング、不耕起栽培)、果菜2課題(イチゴ)、茶・畜産(鶏)・病理各1課題で、米の課題が例年になく多く、畜産が少ない印象であった。研究課程は果樹(ミカン)、果菜(トマト)、野菜(ベビーリーフ)で各1課題であった。

 養成課程は今年も評価が高く、若手農家のプロジェクト発表にも関わっている審査員からは「実際に経営を行っている農業者に劣らない研究内容」との評価も寄せられた。また、パワーポイントを使った演示も全体的に評価が高かった。ただ、リモートのせいで時々声が途切れたり、立ち上げの遅れがみられたりしたのは発表者には気の毒であった。

 内容的には農業の地域資源を生かした六次産業化やSDGs、みどりの食料戦略、スマート農業に関係するものが目についたが、時宜にかなっており評価も高かった。

 2年前の令和元年は米の発表がゼロで、委員からはそれを惜しむ声が見られたが、今年は米の需要喚起としての米ドレッシングや生米パンの商品開発の発表があり、評価も商品の完成度が学生の域を超えていると高かった。

 環境問題への関心が高く、省エネや減農薬、SDGsとして石油暖房に代わる蓄熱板の利用や減農薬につながる振動装置を使った害虫防除の研究、施肥の省力・低コストにもつながるリモートセンシング活用で可変追肥をしていくというようなスマート農業の研究もみられた。また、ともすればやっかいな産業廃棄物扱いされる米糠や酒粕の家畜のエサ利用と地鶏を結びつけることで地域資源化し、同時にSDGs社会の実現を目指すような学生らしい発想で取り組む研究が多くみられた。発表内容をひとつひとつとりあげないが、農大生がこれからの農業経営の改善に環境問題を取り入れてやっていこうとするすべての発表に通じる姿勢だということが伝わってきた。

 研究課程は3課題で少し寂しい気はしたが、発表は卒業後の自身の就農計画が底辺にあり、今後に期待を持たせる内容であった。もともとプロジェクト学習は卒業後の営農計画作成のための実践的学習であり、原点に立ち返った印象を持った。これまで研究課程の発表は、どちらかというと養成課程の陰に隠れてしまってきたが、養成課程で学んだ基礎知識の上に立って、じっくりと就農に向けてプロジェクト研究を重ねていってみるのも研究課程のプロジェクト学習のあり方かもしれない。

3.意見発表

 ねらいとするところは、開催要領に書かれているように「大学校等における実践学習、自家の農林業経営や生活、地域の農山村環境、就農等について、自らの学生生活を通じて日頃考えていることや想い等を発表する」ことである。発表者は10名であったが、学年別内訳でみると2年が2名、1年が8名であった。農大は担い手育成を使命とする研修施設であるので、発表内容には就農への夢が多く盛り込まれている。しかし、当然のことながら2年生には4月からの就農への想いが、1年生にはこれからの就農への想いが込められている。

 そのような違いがみられる一方、発表内容には一様にそれぞれが今後生きていこうとする地域への想いもあるのが印象的である。就農には親元就農もあれば新規参入者としての就農を希望する者もいるという土俵の違いはあるが、どちらにもその夢を実現できる場が平等に与えられることを願いつつ発表を聞いた。

 発表の中で異彩を放っていたのが「農業が嫌い」という課題である。内容的には嫌いなのは父親で、農業に夢を持つ発表者が父親の農業への偏見を払しょくする2年間の農大生活の発表なのだが、農業への深い想いが審査員の心にも響いた。発表内容もさることながら課題名で聴衆を惹きつけるということを感じさせる発表であった。

 いつものことながら、卒業を控えた2年生には発表した想いを大切に就農していってもらいたい。そして、あと1年の研修が残る1年生には発表した想いをより具体化していってもらいたいと思う。

4.終わりに

 コロナウイルスの影響により急遽東京会場での発表会からリモート発表会への切り替えとなり協議会の会長、事務局をはじめとして関係者の方々は大変なご苦労があったと推察する。審査や講評に当たる者にとっても対応は別の意味で大変であった。特に司会進行をつとめた岩手県立農大は結果の取りまとめも含めてこの3日間はもっとも大変だったと思う。

 リモート会議はコロナ禍で定着した。コロナウィルスが、終息の見通しが立たない以上今後も同様の事態は発生すると考えられる。今回、審査マニュアルでは発表に対する質問は、カメラON、マイクONで行うとなっていたが、途中から挙手方式に変わった。確かに挙手の方がスムーズな進行につながっていたように思われる。

 審査員の打ち合わせ会議では昨年の収録方式による審査も意見としてはあった。しかしながら、接続によるトラブル、不慣れによるトラブルのことを考えれば収録方式の方が良いが、質疑応答を通じた臨場感は何事にも代えがたいものがあったように思われる。関係者には今回のリモート開催について、技術的なことも含めて総括をお願いしたい。

 私はリモート対応に未熟であり、今回への審査・講評に当たってはかなり苦労もし、事務局にもご迷惑をおかけした。できることなら多くの農大生が集うなかでの発表会が一日も早く訪れることを願っている。

(令和4年2月3日)

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